昔々のお話しです。
地獄という世界に、悪魔大王の娘がいました。
名前をメーユといいました。
あるときメーユは、悪魔の世界と天国とを繋ぐトンネルを偶然にも発見します。
天国という世界を、噂でしか聞いたことがなかったメーユは天国を見てみたいと思いました。
そして、そのトンネルを通り、天国へと向かいました。
地獄から天国への一方通行の道とは知らずに…
天国に出たメーユは驚きました。
天国では皆が仲良く楽しそうです。
地獄は弱肉強食で殺伐とした世界です。
その地獄で育ったメーユは、皆が仲良く楽しそうに暮している世界は居心地が悪く感じました。
そしてすぐさま、来た道を引き返そうと思いましたが、そこにはすでに道はありませんでした。
その時でした。
ひとりの天使がメーユの存在に気付きました。
そしてこういいました。
「悪魔さん、ようこそ天国へ」
天使は歓迎してくれているのですが、その万遍の笑みが無性に気に入らないメーユは思わず、自慢の大きな爪で、天使の羽根を引きちぎってしまいました。
深く傷ついた天使は、メーユに魔法をかけて可愛いヤギの姿に変えてしまいました。
そして、天使からこう言われました。
「悪魔さん、どうか「愛」を知ってください。」
「あなたが、元の姿に戻って地獄に帰れるようになるには、あることをしなければなりません。
それは、手紙を書いて送ることです。
手紙を送る相手は誰でも構いません。
しかし、受け取った相手が本気で感動し、愛を伝えた時に、魔法は解けて、本来のあなたの姿に戻ることが出来ます。」
天使はそう告げると、5枚の便箋と、5枚の封筒と、5枚の切手を可愛いヤギの姿になったメーユに手渡しました。
「その5枚の手紙が無くなったら永遠に魔法は解けません。
いつ、誰に、どんな手紙を出すのかよく考えてください。」
天使は引きちぎれた羽根を拾いあげると簡単に修復し、何事もなかったように飛んでいきました。
可愛いヤギの姿になったメーユは自慢の鋭い爪も、獲物を突き刺す尻尾も無くなっていることに気づくと言葉を失いました。
そして水面に写った自分の顔をみて嘆きました。
「こんな可愛いヤギの姿をした悪魔が愛される手紙を書ける筈がないわ…そもそも誰に手紙を出せばいいのかわからない…」
天国は不思議な世界です。
お腹は空きますが、食べなくても平気でいられます。
眠たくもなりますが、寝なくても平気でいられます。
いったいどのくらいの時間がたったのでしょう。
可愛いヤギの姿のメーユは立ち上がり、力強く決意しました。
「手紙を書くしかないみたいね。
そして必ず元の姿に戻るわ。」
そう言って5枚の便箋と、5枚の封筒と、5枚の切手を拾いあげると、何かに気付き、しばらく黙り込んでからこう言いました。
「 ペンがないわ…」
****プロローグ終わり****
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