メーユとテガーは魔法の手紙を手に入れました。
使い方も台車ネコに聞いて、ひととおり理解出来ました。
テガーは言いました。
「メーユはこの魔法の手紙をどう使うつもりなんだい?」
テガーのあまりにも直接的な質問に、メーユはすぐに答えることは出来ませんでした。
メーユが天使から与えられた試練は、この手紙を使って愛を知ることでした。
メーユは今だに、何をしていいのかさっぱりわかりません。
何を書いて誰に手紙を出せば、愛を知ることが出来るのか…
少しの沈黙のあと、メーユが口を開きました。
「テガーなら、誰に魔法の手紙を出すのかしら?」
テガーは少し考えながら言いました。
「魔法の手紙といっても、普通の手紙と違う事と言えば、あの変なネコがすぐに届けてくれる事と…あとは…」
「相手の住所が分からなくても、知ってる人なら届けてくれるって。」
メーユがそう言うと、テガーもそうそうと相づちをうちました。
「それにもうひとつ、天国以外の別の世界にも届けることが出来るって言ってたよね。」
テガーがそう言うと、メーユはハッとしました。
(天国以外の世界って…もしかしたら地獄にも手紙を送ることが出来るのかしら…
そうしたら、父である悪魔大王に手紙を出せば、この天国まで迎えに来てくれて、私を地獄に戻してくれるかも…
父ならきっとここまで来ることが出来るはず…そして私を元の悪魔の姿に戻してくれる…)
メーユは天国の世界が、少しずつ好きになっていました。
初めて天国に来た時は、平和な人たちの暮らしが馴れ合いに見えて、とても嫌な世界だと思いました。
メーユが育った悪魔の世界とは全く真逆だったからです。
人は優しく、暖かく、親切で誰もが平和的で争いが無い世界…
天国にいると悪魔ですら優しくなれました。
テガーに出会って、正体がばれたく無いと思い、このまま天国で過ごしてもいいとさえ思い始めていたメーユでした。
しかし、地獄に帰る方法が見つかったとなると、メーユの気持ちも揺れ始めます。
地獄といえど、メーユの育った世界です。
毎日、争いや奪い合いが絶えない秩序の無い世界ですが、そこにはメーユの父もいます。
そして婚約者もいます。
メーユは自分の中で、地獄に帰りたい気持ちが大きくなっていくのを感じました。
(帰ろう、地獄へ…私の居るべき所へ…)
メーユは決断しました。
そして、テガーに自分の正体を打ち明けることにしました。
メーユは言いました。
「テガー、ちょっと話があるの…」
「な、なんだい…急に深刻な顔をして」
テガーもメーユの表情が変わったのが分かりました。
メーユは続けました。
「私、実は……」
言葉に詰まるメーユ。
「実はなんだい?」
聞き返すテガー。
「驚かないでね、実はね、私…」
そこまでメーユが言いかけた時でした。
「だ、だれかー、助けてくださいー
ぼ、坊やがー」
大きな鳥がメーユとテガーに向かって飛んで来ました。
大きな鳥はメーユとテガーの前までくると、取り乱しながらこう言いました。
「さっき、あの森に悪魔がいたの…そして、私の子供を鋭い爪で掴んで奪って行ったの…」
「ああ、私の大事な坊や……」
「あ、悪魔ですって⁈」
メーユは驚きを隠せませんでした。
「それで、悪魔はどっちに行ったんだい?」
テガーは冷静に母鳥に聞きました。
「に、西の森のほうに坊やを連れて飛んで行ったわ…
私も懸命に後を追ったけど、この羽根では…」
母鳥の羽根は無残にも一部が引きちぎれていました。
「坊やを守ろうとして 悪魔にやられたの…」
メーユはその母鳥の傷をみてショックを受けました。
確かに悪魔の爪による傷跡だったからです。
「どんな悪魔があなたを襲ったの?」
メーユはとっさに聞きました。
母鳥は言いました。
「角が4本あって、羽根が4枚あるとても恐ろしい姿をしていました…」
母鳥の言葉に、メーユは驚愕しました。
(4本の角と4枚の羽根…間違いない… エアメーだ…)
メーユの身体は少し震えているようでした。
それは恐怖で震えているのではありません。
メーユはさっきまで、悪魔の世界に帰ろうと決めていました。
しかし、平和な世界で暮らしている親子の鳥を、自分の婚約者であるエアメーが襲ったことに、怒りを覚えました。
と同時に自分が悪魔であることが悲しく思い、戸惑いと、怒りと、悔しさが混じりメーユの心と身体を震えさせていたのでした。
「母鳥さん、坊やはきっと私が見つけて、助けてあげるから。」
メーユは母鳥の目を見てしっかりと言いました。
テガーも怒りを隠しきれない様子でした。
「この世界に、悪魔なんて必要のない存在さ…」
テガーはそう言うと、メーユの顔をじっと見つめました。
「行こう、メーユ、坊やを助け出そう。」
西の森の方へ行こうとするテガーにメーユが言いました。
「ちょっと待ってテガー。」
メーユは辺りを見渡すと、長い草を見つけてちぎりました。
そして母鳥の傷ついた羽根に草を巻きました。
「これは薬草なの。今はこんなことしかしてあげれないけど…」
メーユは申し訳なさそうに母鳥に言いました。
母鳥はメーユにお礼を言いましたが、メーユはうつむいたまま返事をしませんでした。
その様子をテガーは何も言わずにだだ、見守っていました。
「さあ、行こうメーユ。」
テガーはメーユに手を差し伸べました。
メーユは黙ってテガーの手をとりました。
そして2人は西の森のほうへと、坊やを探しに行きました。
第3章 悪魔
終わり
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