母鳥の移動速度はとても早く、テガーとメーユは振り落とされないようにするので必死でした。
テガーがメーユに何かを話しかけましたが、母鳥の翼が風をきる音でメーユには聞こえませんでした。
メーユはテガーに顔を近づけると、テガーの声が聞こえました。
「魔法の手紙を2枚も使ってしまって申し訳なかったね…」
メーユは
「ううん、坊やが助かるなら何てことないわ。それにテガーが悪い訳じゃないのよ…悪いのはあの悪魔なんだから。」
メーユは会話をしている途中でエアメーのことを思い出し、いらついているようでした。
メーユは天国にきてから優しさというものを知りつありました。
だからこそ、エアメーの行動に腹が立ったのです。
「僕も悪魔は最高に嫌いさ…」
テガーそう言うとメーユの顔を見て、視線をそらすと遠くを見つめました。
そしてすぐにまたメーユに視線を向けるとこう言いました。
「メーユ、最期の魔法の手紙は、悪魔を殺す為に使おう…」
メーユは思いがけないテガーの言葉に目を大きく開きながら聞きました。
「て、テガー、今、悪魔を殺すって言ったの? あの森で出会った悪魔を殺すってこと⁇」
「そうだよ。」
テガーは冷静にそして冷たくそう答えると、メーユに言いました。
「この世界、つまり天国の世界にはどうしてか分からないけど、たびたび悪魔がやって来るんだ。
そして町を壊したり、いたずらをして天国の住民に酷いことをするんだ…
しばらくすると不思議とどこかに行ってしまっていなくなるんだけどね。
僕は悪魔の存在自体が許せないのさ…
今回の悪魔だってそうさ。
なんの罪もない坊やをさらって、母鳥まで傷つけて…
しかも悪魔王子って言ってただろ…
もう、このままにしておく訳にはいかないんだ…
いつか、この世界は大変なことになるに違いないよ。
だから今のうちに、僕があいつを殺してやるんだ…」
テガーの悪魔に対しての異常なまでの憎悪を、メーユは感じました。
メーユは思いました。
(テガーはエアメーを殺すと言ったわ…
私には、テガーがエアメーを殺せるとは思わない…
エアメーは悪魔王子だけあって地獄の中でも相当強いもの…。
テガーは魔法の手紙を使うと言ったわ…
どうやったら魔法の手紙をつかってエアメーを殺せるのか、私にはわからない…
でもテガーには何か作戦がある。
坊やの居場所を突き止めたのも、テガーが上手く魔法の手紙を使ったからだわ…
もし…もしも、本当にエアメーを殺せるとしたら…私は…)
その時でした。
「メーユ‼︎」
「メーユ‼︎」
考えて混んでいるメーユにテガーが叫んでいました。
「見えてきたよ、あそこが時計台さ‼︎」
テガーが指で示した先には、古びた怪しげな時計台がそびえ立っていました。
「坊があそこに…」
母鳥が呟きました。
母鳥は塔に近づくと、テガーに指示されてゆっくりと降下していきました。
そして塔の傍の草むらに着地すると、テガーとメーユを背中から下ろしました。
「母鳥さんはここで待っててください。」
テガーがそういうと母鳥は黙って頷きました。
「行くよ、メーユ! 悪魔をやっつけよう‼︎」
テガーの言葉にすぐにメーユは反応出来ませんでした。
心のなかでメーユはこう思っていたからです。
(自分の正体が悪魔だと知られた時は、テガーはいったいどうなってしまうの…
私もことも憎く思うの…
正体を隠していたんだもの、当然よね…
それでも…
とにかく、今は坊やを助けることが先決だわ。
それまでは、何があってもテガーに正体をばれてはいけない…)
そう決心するとメーユは言いました。
「テガー‼︎ 坊やを救い出しましょう‼︎」
メーユとテガーは時計台の裏口にまわると、そっと扉を開けて中へと入って行きました。
扉をあけると焼きたてのパンの匂いがしました。
そこはもうコウモリのパン屋の中でした。
「ここで間違いなさそうね…」
メーユが小さい声で言いました。
2人は音を立てないように、店の中を見渡しましたが、誰もいないようです。
お店の中には沢山の焼きたてのメロンパンが机の上に置いてあるだけでした。
「誰もいないようだね。」
テガーが言った時です。
「いらっしゃい。」
突如、テガーの頭上から声が聞こえました。
テガーとメーユが声のした方を見ると、天井から年寄りのコウモリがぶら下がっていました。
びっくりするテガーとメーユにコウモリは続けました。
「裏口からくる客とは珍しいのう……。
あんたらパンを買いに来たのか?
それともパンを盗みに来たのか?
どっちじゃい…」
年寄りのコウモリは険しい顔で2人を睨みつけました。
すると、たちまちテガーとメーユは何も喋れなくなり、身体を動かすことも出来なくなりました。
年寄りのコウモリが2人から目を逸らすとこう言いました。
「なるほどのう…悪魔王子に連れ去られた鳥の坊やを助けにきたのか…」
メーユとテガーは驚きました。
何も話していないのに、全てを知っているかのようです。
「な、なんでそれを…」
テガーがいうと、年寄りのコウモリは言いました。
「あんたらの頭を読んだんだよ。」
2人はいつのまにか、身体が動かせるようになっていました。
「そんなことが本当に出来るの⁇」
メーユが聞くと、コウモリは答えました。
「あんたは、ここに来てまだ間もないようじゃの…
そして、今の自分に迷いを感じておるのう…
どうじゃ?まだ続けるか?」
「わ、分かったわ。おじいさんを疑った訳ではないのよ。」
メーユは自分が悪魔だということがコウモリにばれてしまったのか心配でしたが、コウモリはそれ以上何も言いませんでした。
テガーはコウモリに言いました。
「状況はわかったと思う…
単刀直入に聞くが坊やがどこにいるのか知ってるか?」
コウモリは少し困ったような顔をして言いました。
「さすがに場所は知らんぞい…」
落胆するテガーとメーユでした。
「だだし…」
再びコウモリは話し始めました。
「見当はつくぞい。」
メーユは興奮して言いました。
「どこどこどこっどこなの⁈」
「おそらくここの時計台のてっぺんじゃろう。
あそこには、今は使っとらんが、大王鳥の巣があったからのう…」
「きっとそこに違いないわ。ありがとうおじいさん。」
メーユが言うとテガーも頭を下げました。
「一旦、店の外に出よう。そして準備を整えるんだ。」
テガーはそう言うとメーユを店の外に連れ出しました。
2人は時計台を見上げると、てっぺんにある巣を見つけました。
「あそこか…」
テガーが言いました。
「準備って何?早く坊やを助けに行きましょう」
メーユがそういうと、テガーは少し間をあけ、慎重にいいました。
「さっき、話した悪魔を殺す為の準備をするのさ…」
メーユには影になって見えませんでしたが、テガーの顔はまるで悪魔のようでした。
第6章 正体
終わり
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