メーユはテガーに聞きました。
「どうやってあのエアメーをやっつけるの?」
テガーは少し早口でいいました。
「やっつけるのではなくて、殺すんだよメーユ。」
(本当に殺す気だわ…)
メーユは確信しました。
「いいかいメーユ、僕の考えたプランはこうだよ。」
テガーは語り始めました。
「天国にはものすごく強烈な毒を持つ花があるんだよ。
ユウビって名前の花さ。
そのユウビの花を乾燥させたものがこれさ。
これをあの悪魔に食べさせるのさ。
いったいどうやって…と思ってるだろ。
まずはこの毒を、さっき拝借したメロンパンの中に詰める。
ほら見た目は普通のメロンパンだろ。
そしてここで、魔法の手紙を使うのさ。
さっき、あいつはメーユに言ったよね。
自分の婚約者と同じ名前だって。
そして婚約者がいなくなって探していると。
だからメーユの名前を使って魔法の手紙をあの悪魔に出すのさ。
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エアメーへ
私は天使に魔法をかけられて囚われています。
この手紙と一緒に封筒に入っているメロンパンの中にいるの。
一口かじることによって魔法は解かれ、私はメロンパンの中から逃げ出すことが出来るの。
早く私を助けて…
メーユより
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どうだい?
普通なら信じないような話だけど、あいつは魔法の手紙が突然目の前に出てきて動揺し、魔法を信じるだろう。
そして婚約者が目の前のメロンパンの中にいる。
しかもあいつは地獄に戻りたがっているということは、裏返せば仲間が欲しいってことさ。
これなら絶対にメロンパンをかじるだろう。
そしてその時があいつが死ぬときさ…」
メーユはテガーの作戦を聞いて驚きました。
(これなら、きっとエアメーは死んでしまうだろう…)
メーユは今までのことを振り返りました。
(私は天国に来て天使の試練をうけ、悪魔の姿からヤギの姿になってしまったわ…
再び悪魔の姿に戻るには、魔法の手紙で愛を知ること…
最初はすぐにでも悪魔の姿に戻って地獄に帰りたいと思ったわ…
でも、天国の住民はみな優しくて次第に天国が心地よく感じるようになったの…
そして、テガーに出会った。
ここの生活も悪くないわ…いや、もしかすると、私はずっとここにいたいと思っていたのかも…
婚約者のエアメーがここに来た時は驚いたし、少し懐かしいと感じたけど、地獄に戻ろうとは思わなかったわ。
エアメーは親鳥を傷つけて、坊やをさらった。
これは決して許されることではないわ…
だからといってエアメーを殺す?
そこまでする必要があるの…
もうエアメーに恋心はないわ…
これは間違いない。
殺すことに、ためらいを感じているの…)
メーユが考え混んでいるのを見てテガーはいいました。
「メーユ、早く魔法の手紙を書くんだ。
もうすぐ夜が明ける。
そうしたら約束の時間になって坊やもここを連れて行かれる。
そうなったら約束のトンネルも嘘だとばれて、坊やはきっと殺される…
だから、早くメーユ!手紙を書くんだ‼︎」
メーユは少し黙り込むと何かを決心し、テガーの顔を見ずに言いました。
「ごめんなさい、テガー…」
そう言うとメーユは母鳥のもとへ走りました。
そして母鳥の背中に飛び乗り、こう言いました。
「この塔の上に坊やがいるわ‼︎
飛んで‼︎」
母鳥はものすごいスピードで上昇すると、あっという間に大王鳥の巣へと辿り着きました。
少し離れた場所から巣の中を確認すると、そこには坊やとエアメーが居ました。
「坊や‼︎」
母鳥は思わず叫びました。
「しーっ‼︎」
メーユは母鳥にいいました。
どうやら2人は眠っているようでした。
メーユと母鳥は驚きました。
すっかり坊やは牢屋のような場所に入れられていると思ったからです。
こっそりと母鳥が巣に近づくと、メーユは母鳥の背中から巣へと飛び移りました。
そしてメーユは慎重に慎重に一歩ずつ坊やに近づきました。
そして眠っている坊やをそっと持ち上げた時でした。
「地獄に帰れるぞー‼︎」
エアメーの声でした。
メーユは心臓が止まるほど驚きました。
(見つかった‼︎)
ゆっくりメーユは振りかえりました。
エアメーはまだ寝ていました。
どうやら寝言だったようです。
メーユは思いました。
(エアメーはただ地獄に戻りたいだけなんだろう…
そして帰る方法が分からずにイラついていたのだろう…
ようやく帰る方法が見つかったからこうやって坊やと一緒に寝ているんだろう…)
その時です。
坊やがエアメーの寝言に驚いて目を覚ましたのです。
坊やは寝ぼけているのか、キョロキョロしています。
そして巣の近くを飛んでいる母鳥に気づくと
「ママーっ‼︎」と大きな声で叫びました。
その瞬間エアメーも目を覚ましました。
エアメーは一瞬で状況を判断すると地の底が割れるような低く大きな声で言いました。
「お前たち…騙したのか‼︎‼︎」
母鳥はとっさに、坊やを足で掴むとメーユにいいました。
「乗って‼︎」
メーユは急いで母鳥の背中に飛び乗りました。
母鳥は巣から逃げようと必死に飛んでいます。
エアメーは4枚の羽根を広げると、飛んでいる母鳥に向かって大きな口をあけて吠えました。
グガガガガガガガガガガガ…
それは大きな音でした。
メーユは耳が割れるかと思いました。
母鳥は急降下しています。
なんと、その衝撃で母鳥は失神してしまったのです。
落ちていくメーユと母鳥と坊や。
坊やは自ら羽ばたくと、母鳥をつかみました。
なんとか地面への衝突は免れそうです。
メーユはその様子を見ながら落ちていきます。
地面が近づいたとき、メーユはもう終わりだと思いました。
ドサッ
メーユが目を開けるとテガーがキャッチしてくれていました。
「て、テガー‼︎」
「ナイスキャッチだろ」
テガーはメーユの顔をみてニコッとしながら言いました。
メーユは思わずテガーに抱きつきました。
「あまり、楽しんでいられないようだね」
テガーは狂ったように羽ばたいているエアメーを見てそういいました。
エアメーはメーユたちを探しているようです。
「ごめんなさい。テガー
あなたの作戦どおりにしなくて…」
メーユは言いました。
「いいんだよ。坊やも無事に助け出したみたいだし。
とりあえず、なんとかここから逃げよう。」
テガーは優しくそう言いました。
空を見上げるとエアメーはメーユたちを見つけられないことに苛立ち、時計台を壊し始めました。
(エアメーやめて…)
メーユはエアメーの気持ちが痛いぐらい分かりました。
帰る場所がなくなって狂ったように苛立っているエアメーはすごいチカラで時計台を壊していきます。
大きな音と振動に驚いたパン屋のコウモリが店から飛び出てきました。
エアメーはコウモリを見つけると、瞬時につかまえて、手で握り潰そうとしています。
「お前は地獄に戻る方法を知っているのか…」
エアメーはコウモリを強く握りながら聞きました。
「し、知らんのう…」
コウモリじいさんがそう言うと、エアメーは怒りながらいいました。
「では、死んでしまえ…」
エアメーがコウモリじいさんを潰そうとしたその時でした。
「やめなさい‼︎ エアメー‼︎」
空が割れるほどの大きな声がしました。
声を出したのはメーユでした。
しかし、それは今までのメーユの声ではありませんでした。
テガーはメーユの姿を見て驚きました。
メーユの背中からは悪魔の羽根が生えていたのです。
「お、お前はまさか…俺の婚約者のメーユなのか?」
エアメーは驚きをかくさないまま聞きました。
「そうよ…私よ。この羽根をみて分かるでしょ。」
メーユは誇らしく言いました。
「おお、メーユだ。間違いない。
こんなとこにいたのか…
しかしなんて姿をしているんだ。
早くもとの姿になって一緒に地獄に帰ろう。」
エアメーは言いました。
「そうね、地獄に帰りましょう。」
メーユはあっさりと言いました。
「何⁈ まさか地獄に戻る方法を知っているのか⁈」
エアメーにそう聞かれると、メーユはこう答えました。
「簡単なことよ。」
そういうと、メーユは魔法の手紙を出しました。
テガーの作戦で使わなかった最後の1枚です。
すると何やら便箋に書き始めました。
書き終わると、すぐに封筒にいれて切手を貼りました。
すると、台車ネコが七色の光とともに現れました。
「これをお願い…」
メーユは台車ネコにいいました。
「簡単なことさ。」
そういうと台車ネコは消えてしまいました。
(メーユ…いったいどうするつもりなんだ…)
可愛いヤギの姿のまま悪魔の羽根が生えているメーユを心配そうに、テガーは見つめています。
その時です。
明るくなりかけていた空が一瞬で真っ暗になりました。
すると突然、轟音と共に空が裂け始めました。
その裂け目から、それは大きな大きな手が出てきました。
その手はとても鋭い爪が生えていました。
「ま、まさかあの手は…
だ、大王様…」
エアメーがそう言うと、手は一瞬でエアメーを捕まえました。
そしてエアメーを捕まえたまま、また裂け目へと戻っていき姿を消しました。
裂け目はすぐに閉じ、辺りはまた明るさを取り戻していました。
その一部始終を見ていたメーユは心の中で言いました。
(お父様ありがとう…)
そして、親鳥と坊やとコウモリじいさんが無事なのを目でみて確認すると、テガーに向かって言いました。
「ごめんね、テガー。これが私の正体なの…」
テガーは黙ってメーユを見つめています。
メーユは続けました。
「私は悪魔大王の娘なの。
この世界に迷いこんでしまって、そして天使に酷いことをしたの…
そしたら悪魔の姿からこんな可愛いヤギの姿に変えられたの…
今まで隠していてごめんなさい。」
メーユはテガーを見ました。
すると、テガーは少し怖い顔でメーユに聞きました。
「手紙にはなんて書いたんだい?」
メーユは答えました。
「さっきの魔法の手紙は、地獄のお父様に宛ててこう書いたの。」
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お父様へ
お久しぶりです。
メーユです。
私は今、天国にいます。
婚約者のエアメーも一緒にいるわ。
私はしばらく天国で暮らそうと思うけど、エアメーはここの空気が合わないみたいなの。
それで、エアメーだけ帰ることになったんだけど、帰り道がわからなくて困ってるの。
お父様なら何とか出来るでしょ。
エアメーだけを天国から地獄へ帰してあげて。
可愛い娘より
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「さすがの悪魔大王でも天国の世界に手をいれるのがせいいっぱいだったみたいね…
でも無事にエアメーも地獄にもどってると思うわ。」
メーユは少し微笑みましたが、テガーの表情は変わることはありませんでした。
メーユはそれがすごくつらく感じました。
(やはり、私が悪魔だと知ったら今までどおりって訳にはいかないわよね…
きっとテガーからすると悪魔は殺したいほど憎い存在だわ…
だから私がそばにいれるわけないよね…
本当はずっとそばにいたかったけど…
さよならテガー……)
「それじゃあ…」
メーユは、とても小さな声でそう言うと、親鳥と坊やとコウモリじいさんに頭を下げました。
テガーの顔はもう見れませんでした。
そして、悪魔の羽根を羽ばたかせ東の空へと飛んで行きました。
テガーは飛んでいくメーユの背中をじっと見ていました。
そしてメーユの姿が少し小さくなったとき、テガーは叫びました。
「メーユ‼︎」
さらに、テガーは叫びました。
「メーユ‼︎待ってくれ‼︎」
「メーユ‼︎」
「メーユ‼︎」
「メーユ…」
テガーはメーユの姿が見えなくなるまで叫びました。
メーユは飛びながら泣いていました。
テガーの声がメーユに聞こえていたかどうかは分かりません。
どこまで飛んで行ったのでしょう…
メーユは泣き疲れて羽ばたくのをやめると、そのまま地面に墜落しました。
そこでメーユは力尽き、眠りに着きました。
第7章 メーユ
終わり
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